校長室から『人との関わりの中で学ぶことは、とてつもなく大きい~5カ月ぶりのリアル対面~』

 避難帰国していた派遣教員が、先週、久しぶりに学校に戻りました。その間、実に五カ月。とてつもなく長く感じた時間でした。オンライン授業で通常通りのイラン時間で実施し、座学として学べる教育課程は、学校行事ができない分、100%以上の進捗率でした。実体験を伴った学習や技能習得の教科は今後挽回していかなければなりませんが、オンラインである程度の授業ができることは、授業を受けた子ども達も、指導した教員も感じたことでしょう。しかし、同時に、教員が画面越しに行う授業ばかりで毎日が過ぎていく状態に、違和感を持ち、教育として不十分であると感じたことでしょう。子ども達には、4月の避難時においても、そして今回も繰り返し「大人の勝手な都合で」と表現し、国際情勢悪化の状況を詫びてきました。戦争ではありませんが、こうした国際間でのいざこざは、子ども達に大きなしわ寄せがいきます。子ども達が望んだことでは全くありません。これは、大人の責任です。

先月、イランでオンライン授業を受けている子どもが、「学校に先生がいる雰囲気を忘れてしまったなぁ」と漏らしたそうです。そして、先週、全派遣教員と再会の場を講堂で持ったのですが、「久しぶりすぎて、緊張する」と言っていました。さすがに5カ月もオンライン授業が続いたら、そのような感覚になるでしょう。子ども達と先生の関係づくりは、もう一度、一から始めなくてはならないと思ったぐらいです。

今、『小学校~それは小さな社会~』という映画が、注目を浴びています。アカデミー賞の「短編ドキュメンタリー映画賞」のショートリストに入ったそうで、海外でも日本の小学校教育が脚光を浴びているようです。映画は見てはいませんが、コマーシャルから察するに、日本人の勤勉さ、道徳心、規律と秩序を重んじる姿勢が小学校生活で培われていることをテーマにしているようです。教室の掃除や給食の配膳を自分たちでしたり、登下校や集会、運動会などの学校行事が整然と行われたりする子どもの様子は、世界から見れば稀有な姿です。私は、この映画で色濃く出されている「みんなと一緒」「みんなのために」という思考には批判的な立場です。個よりも集団が優先される日本の学校教育の考え方は、多くの不幸な子ども達を生んでいると思います。しかし、先に挙げた勤勉さや道徳心、協調性などは誇るべき日本人の姿であり、今後も学校教育で大切にすべきであると考えています。

このような世界に誇るべき姿勢、考え方をどこで育むことができるのか。それは間違いなく学校だと思います。学校には、友達がいて、先生がいて、学校を取り巻く大人たちがいます。まさに、“小さな社会”です。その中で、子ども達は多くのことを学んでいきます。その学び方が、「こうしなければならない」「みんなに迷惑をかけないようにしなければならない」という縛られた価値観を植え付けるアプローチではなく、「あなたはどうしたいの?」「どうすればよかった?」とここに考える自由、そして失敗する自由があるアプローチでなければならないと考えています。

そんなことを考えて成功したり、失敗したりする機会は、友達、先生、学校を取り巻く大人たちの存在が不可欠です。今回の4か月半に及ぶオンライン授業では、見守り支援スタッフ2名の存在はとても大きかったと思います。ある保護者は「担任の先生のように慕っていました」とおっしゃられました。私もオンライン授業をしていて、チラチラ横を見る子どもの視線を感じました。画面に映っていないのですが、子どもの傍にはにっこりと微笑みながら座っておられる支援スタッフがおられたはずです。ある授業では、図書の本を読んでいる子どもの横で静かに優しい視線を投げかけておられる姿が映し出されたこともありました。教育は先生だけで行うものではありません。先生よりもこうした職員の存在が子どもにとって成長の糧になることはよくあることです。今回の4か月半のオンライン授業では、子どもの成長は当然、先生だけの力ではないということを感じるとともに、人との関わりの中で成長することを再確認しました。こうした人との関わり合いをいかに創出させていくのか、そして関わり合いをどのように活かしていくのかが学校の腕の見せ所だと考えています。決して、一方的な価値観の押し付けではなく。

今年は子ども達にとっても、派遣教員にとっても苦難の1年でした。来月からは、失われた教育活動を全力で取り戻しに行く3カ月が始まります。そして、多くの経験、人との関わりの中で子ども達に多くの学びがもたらされるよう工夫していきます。

それでは、来年が平和で子ども達の笑顔あふれる1年になることを期待し、今年のブログを閉じたいと思います。よいお年をお迎えください。

 

テヘラン日本人学校で学ぶ子ども達へ

「おかれたばしょで、さきなさい」。なんどもこのはなしをしましたが、みごとに、いろんなばしょであなたらしいはなをさかせています。こんな、うれしいことはありません。いちがつ、みんながえがおでがっこうにくることをたのしみにしています。

校長室から『人との関わりの中で学ぶことは、とてつもなく大きい~5カ月ぶりのリアル対面~』

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