校長室から『異学年での学び合いを促進する~複式授業の醍醐味~』
私は、低学年の算数、小学部の書写、小中学部の図工・美術の授業を担当しています。これらすべての授業は、異なる学年の子どもたちが同じ教室で学ぶ、いわゆる“複式授業”の形で行っています。
日本の小規模校では、昔から複式授業が行われており、そのノウハウも蓄積されています。これまで私が見てきた複式授業では、一つの学年の子どもを教室の前方に、別の学年の子どもを後方に配置し、教室内を二つの空間に分けて同時に授業を進めていました。授業は一斉に行われていても、実質的には二つの学びの場が存在していたわけです。
日本には「学習指導要領」という、学習内容を定めた基準があります。また、教科書の使用も義務付けられており、授業は学年別に内容が決まっています。そのため、これまで一斉授業の形式で教えてきた先生方にとって、異学年が同じ空間で学ぶスタイルには戸惑いもあるようです。
そんな中、今、教育界では「イエナプラン教育」が注目されています。名古屋市にある山吹小学校はその実践校として知られ、全国から多くの教育関係者が視察に訪れています。イエナプラン教育とは、ドイツで始まり、オランダで発展した教育モデルで、「一人ひとりの自律と共生」を大切にする開かれた教育です。
イエナプラン教育の特徴には、以下のような柱があります。
① 学年をまたいだグループによる学級構成
② 4つの基本活動に基づく学び
③ 教室をリビングルームのように整える環境づくり
④ ワールドオリエンテーション(総合的な学習)の実施
⑤ 健常者と障がい者がともに学ぶ体制
これらの考え方に共通しているのは、「年齢や学年にとらわれず、個々の興味や関心を起点に学ぶ」という視点です。山吹小学校では、1週間の時間割を子どもたち自身が組むそうで、驚くべき実践が行われているようです。「本当にそんなことが可能なのか?」と思ってしまいますが、実現している学校がある以上、できるということなのでしょう。
一方、本校にもイエナプラン教育に近い要素がすでに存在しています。それが“複式授業”です。もちろん、まだ子どもたちの疑問や興味から学びを始める段階には至っていませんが、異学年が一緒に学ぶ環境は整いつつあります。
先日の図工・美術の授業では、1年生から4年生までが図工室で同じ課題に取り組みました。1年生は先輩たちの作業を見て学び、4年生は「こうすると上手にできるよ」とアドバイスをしてくれていました。
書写の時間には、低学年は「書き方」、中高学年は「習字」に取り組んでいます。低学年の子がプリントを仕上げると、「お兄さん・お姉さんに感想をもらいに行こう」と声をかけます。プリントを持って「私の字を見てください」と先輩に頼む2年生。4年生は「“け”の跳ねができていて綺麗」「右と左の払いのバランスがいい」など、丁寧に評価してくれます。
書き方の授業では、一文字一文字をゆっくり丁寧に書いてほしいのですが、先輩たちの姿を見て、自然とゆったりとしたペースで取り組むようになるなど、教師が直接指導しなくても学びが促進されている場面が見られました。
これらの事例は、イエナプラン教育と完全に同じではありませんが、異学年の学び合いには想定以上の価値があることを実感させられます。算数でも、いずれは異学年の子どもたちが協働できるようにしたいと考えています。そのためには、教科書通りの順番ではなく、「数と計算」「図形」「数量関係」などの領域を柔軟に再構成し、学年を越えて共通のテーマに取り組む工夫が必要です。
もちろん、それを実現するには、異学年での学び合いを引き出す「ひと工夫」が必要です。しかし、それさえできれば、学年別・一斉授業という従来の枠を超えた新たな学び方を探る上で、大きなヒントになるはずです。
また、全国で少子高齢化が進み、小規模校化が加速する日本の現状において、「学校統廃合」だけが選択肢ではなく、「複式授業を活かした魅力ある学び」も、次の一手として可能性があるのではないかと期待しています。
【参考資料】イエナプラン教育とは(日本イエナプラン教育協会HP)
自由進度学習で注目の山吹小、イエナプラン教育の「いいとこ取り」の真意(東洋経済オンライン)
テヘラン日本人学校で学ぶ子ども達へ
おにいさんやおねえさんといっしょにべんきょうすると、あたらしいことにきづいたり、まねしてやってみたくなったりすることがあるね。これからも、みんなでたすけあいながら、いっしょにたのしくまなびましょう。