校長室から『自身の将来像を考える~美術の時間の一コマから~』
先週の中学部美術の時間、テヘランではイラン人講師が指導し、私はオンライン画面で様子を観察していました。私は美術の授業担当をしていますが、芸術教科は心を開放する状態をつくることが大切だと考えています。そのため、授業中の会話が活動の妨げになる場合は注意しますが、そうでなければ活動しながらの会話をむしろ歓迎しています。かつては、図工の時間に音楽を流していたこともありました。
そんな美術の時間、一人の子が画面越しに「校長先生は今、なりたい夢や目標はありますか」と尋ねてきました。私は来年3月に本帰国を控えて就職活動をしていること、どうしてもやってみたいことがあることを話しました。すると、「どうして先生になったのですか」という質問に発展しました。私は教師になった経緯を小学校時代から順に話しました。彼は焼き物の色塗りをしながら、真剣に興味深く聞いてくれました。そこで私からも「あなたは、何をしたいと思っていますか」と尋ねると、彼は恥ずかしそうにしながらも、しっかり答えてくれました。そんな一コマが美術の時間にありました。
私がこの職に就くまで、自身の将来像は紆余曲折を経て変化してきました。本や人との出会いによって少しずつ方向が変わったのです。小学校の級友には、幼い頃から家業の和菓子職人を目指し、実際にその道を歩んだ人がいます。彼の将来像は生涯変わりませんでした。確かに、天職として貫く人生も素晴らしいですが、他方、紆余曲折しながら最終的にたどり着く人生もまた意義があります。どちらの道も、人や物との出会い、誰かの一言、心に残る出来事などがあって、少しずつ考えを固めていくものです。
昨年度卒業した生徒は「イランに関わる仕事をしたい」と語っていました。今は日本で多くの同級生に囲まれ、また違った将来像を描き始めているかもしれません。一度口にしたことが変わるのは決して悪いことではありません。むしろ新たに積み重ねられた経験をもとに深い考えから導かれた将来像は、以前よりも価値あるものだとも言えます。ただ、そうしたアップデートやマインドチェンジには、必ず何かしらのきっかけがあるはずです。
テヘラン日本人学校に赴任してから、私は、これまで出会えなかった職種の方々と接する機会が増えました。もちろん、有機農家や酒造職人、映画監督、小売店の店主とぃった、私がこれまで出会ってきた職種の日本人はいません。ですが、グローバルに活躍する方々を見ていると、子ども達をその職場に行かせたいと強く思うようになりました。子ども達の職場体験学習です。
しかし、昨年度は、半年にも及ぶ緊急避難で教育課程が窮屈になり、それを実施できませんでした。今年度こそはと意気込んだ矢先に再び同じ事態が起き、今は先行きも見えてきません。残念でなりません。しかし、テヘランで出会える方々との交流は、確実に子どもの心に化学反応を起こすはずですから、いつか必ず実現したいと思っています。
美術の時間に語ってくれた子は「世界中の言葉を話せるようになりたい」と冗談交じりに話していました。大使館職員の竹内さんのペルシャ語通訳を聞いてそう思ったそうです。将来やりたい仕事とは直接関係していませんでしたが、いつかつながる日が来るかもしれません。あるいは全く別でも、掛け合わせて新しい仕事を思いつくかもしれません。どこに発想のヒントがあるかわからない時代です。だからこそ、子ども達にはプライベートな姿だけでなく、フォーマルな場での仕事の姿を見せたいと思っています。
テヘラン日本人学校で学ぶ子ども達へ
あなたは、どんなことをしてみたいとおもいますか。いろいろなしごとをみて、かんがえてみましょう。いまなら、あなたは、どんなしごとでもできるようになれます。