校長室から『自律的に学べる子を育てる~学校と家庭が大切にすべきこと~』
夏休みとはいえ、テヘランに滞在していると、子どもだけで自由に外に出ることはできません。こうした海外の特殊事情のため、夏季休業中でも、午前中は学校を開放しています。今日は3人の子どもたちがやって来ましたが、それぞれ自分の学習課題に取り組んでいました。メリハリがつくようにチャイムは鳴るのですが、3コマある時間に何をしようが、子ども達に任せています。夏休みの課題をしている子もいれば、器楽演奏や図書室で本を読んでいる子もいました。校庭で運動をする時だけは、職員室にいる先生に許可をもらうことにしています。
「先生、次は何をしたらいいですか」。昔は、こうした“指示待ち児童”が話題になりました。そして、新型コロナ感染の初年、全国の学校が一斉休校になった2020年5月、この問題が露呈しました。休校になって、家庭でどう勉強していけばいいのか分からない子が続出したからです。我々学校関係者は、学習教材づくりに奔走しました。そして、自律的に学べない子に育ててしまっていた責任を感じました。ほどなく、全国では自学自習できるようにと、学習ツールとしてタブレットが配布されました。
あれから3年が過ぎました。「先生、次は何をしたらいいですか」という子は確実に減っていることでしょう。今、“自由進度学習”が注目を集めています。タブレットを活用しながら、自分のペースで、自分がすべき学習を進める授業スタイルです。前任校でも取り組みましたが、算数の時間、タブレットの解説動画を何回も見て学習している子もいれば、練習問題をひたすら解く子、さっさと次のページの課題に進む子など、個々が自由な進度で学習させました。先生は、チューター役。時折アドバイスする時もありますし、質問してきた子に対して黒板を使って授業形式で指導もします。
また、宿題というシステムは少なくなり、自分の苦手なことを自分で考えてする家庭学習にシフトしてきています。そのような家庭学習スタイルは、中学生からだろうと思われるかもしれませんが、前任校では4年生からしていました。学級全員が同じ課題をするのではなく、その子に応じたことを自分で考えてさせていました。当然、この学習スタイルではさぼる子がいます。何をしてよいのかわからない子も。そうした子には、別の手立てが必要であり、家庭学習が定着するまでは宿題を出したり、何をすればいいのかアドバイスしたりすることが必要です。しかし、徐々に自学自習できる方向にもっていくようにしなければなりません。
このように、自律的に学び始める子に育てていくには、大切な視点が二つあります。一つは、一人ひとり学ぶスピード、理解には違いがあることを知っておくことです。この視点が持つだけで、一斉一律の学習方法では対応できないことに気づけるはずです。もう一つは、教えるのではなく、学ばせることを意識することです。もう少し簡単に言うと、手をかけ過ぎないことです。フィンランドの小学校で研修をした際、現地の先生から“信頼の輪”という教育観を教えてもらいました。大人に信頼されると少しずつ、大人と距離をとらせるようにします。逆に、信頼されないと、大人が近くで見守ります。そして、少しずつ先生(大人)から離れていくように仕向けます。例えば、信頼されている子は「次の国語の時間、図書室で勉強してきます」と言ってきたら認めます。しかし、すぐに遊んでしまう子がそのように言ったら、認めません。認められなかった子は悔しいでしょうが、信頼を積み重ねるしかありません。こうして少しずつ自律する力を育んでいるのだそうです。
一人ひとりに違いがあることを認めること、そして少しずつ手放していく方向にもっていくこと。このことは、予測不能なグローバル社会を生き抜くために必要な自律力を育む大切なポイントです。学校だけでなく、家庭でも意識していただきたいと思います。
テヘラン日本人学校で学ぶ子どもたちへ
あなたはじぶんでかんがえて、がくしゅうしていますか。せんせいからいわれてしているようでは、まだまだです。